まず、インプラント治療には保険が適応されません

 患者さんから「将来的に保険の適応になる事はないのでしょうか?」と質問される事があります。でも、おそらく保険適応にはならないと思います。何しろ、年間に医療と福祉の予算を2200億円ずつ削減しようという世の中ですから、新たに医療関連に新しい予算が付くとも思えません。

 という事はインプラント治療は自費診療となりますので、各医院や使用するインプラントの種類、難易度によって費用は様々で、一概に費用が幾らかとは言えません。でも、時々「おたくはインプラントは一本いくらですか?」と電話をかけて来る方があります。

 電話での費用のお問い合わせに対しては、最低限度の費用をお話して後でトラブルになるのも嫌ですので、「現在の状態を拝見して、ご希望を伺ってみないと費用については申し上げられません。もし費用だけが問題ならうちは決して他院より極端に安いとは思いません。」と正直にお話しています。

 最近、スーパーのチラシに「鰻の蒲焼き一尾298円!!」というのを見ました。安い中国産の養殖鰻を中国の工場で加工して冷凍したのかな?(あくまでも想像ですけど)と思いました。いわゆる目玉商品で採算度外視の価格だったのかもしれませんが、本当に美味しい鰻の蒲焼きを食べようと思えば、本職の鰻屋さんが注文を受けてから割いて焼いたジュウジュウ言うような脂の乗った天然鰻のほうが良いと思います。

 インプラントも信頼できるデータの揃った一流メーカーのインプラントもあれば、怪しいコピー品のインプラントもあります。術者の経験や診断能力の差もあるでしょう。インプラントの上の冠を作るのにも、材料だけではなく、実際に作る技工士さんの技術にも雲泥と言って良い程の個人差があります。

 最近ではインプラントの価格競争が話題になっています。インプラントは他の治療に比べても経験と技術と設備が必要な高度な医療だと思います。術中の安全性と術後の良好な予後を得るためには色々な条件が必要になります。

 一尾298円の中国産の鰻の蒲焼きでも味はともかく、とりあえずはお腹は一杯になりそうですが、「食品の安全」という点では疑問を持つ人も多くなっているようです。日本政策金融公庫のアンケート調査によると、中国からの輸入食品について、90.3%が「安全面に問題」と感じており、「購入しなくなった」が80.3%という結果が出ています。

 インプラントは少なくとも数十年にわたってお口の中で機能すべきものです。多くの方が多少高くても安全な食品を選ぶと回答されている一方、インプラントでは費用だけを問題にされる方も多いのは何故だろうかと常々疑問を感じています。これはもしかすると我々歯科医師の啓発活動が不足しているのかもしれません。

 また、安い材料を使った上で技工料の安い技工士さんに仕事を依頼し、最低限の条件をクリアしたとしても、インプラントの原価を考えると一本10?15万円のインプラント治療費では医療機関の経営はかなり不安定になると思います。インプラントは長期的なメンテナンスとフォローアップが必要ですから、本当に大丈夫なのかなぁと人ごとながら心配になります。

 画期的な材料や方法が発明され、それを安全に用いる事ができる事が論文や治験で広く認められればインプラントの費用が劇的に下がる事があるかもしれません。ただし、現在の学会等での発表を見るとどうも急には望み薄のようです。

 安全・確実な処置と、長期間のメンテナンスを行なうためには残念ながら少なからず費用が必要なのが現実です。

 午前中は抜歯即時インプラントでした。

 神経の無い歯が骨の中で折れてしまい、炎症を起こしています。念のために先週から抗生物質を飲んでおいていただいたのですが、抜歯をすると大きな膿の袋が根の周囲に二つもありました。抜歯窩をきれいに清掃してインプラントが入るように少し形態修正して、インプラントを植えました。炎症によって生じた周囲の大きなスペースはβTCP(骨補填剤)とコラーゲンのテープで埋めてすべて終了。手術室に入られてから1時間程で終わりでした。

 お知り合いの方から、『すごく痛い』とか『腫れる』とかおどかされたそうですが、「これで終わりですか?」とやや拍子抜けされた様子でした。

 つい、5年前に比べてもインプラントは随分と進化しています。昔、インプラントを植えた方には悪いイメージしか残っていない方もあるようですが、あまりおどかさないで頂けたら思いました。

ペリオテスト

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periotest.jpg インプラントが骨とどれぐらいしっかりと連結しているかを確認するためにペリオテストという器械を使っています。本体とケーブルで繋がったハンドピースの先端で軽く冠やインプラントの表面をタッピングして、タッピング時の接触時間から動揺度を測定し、デジタル表示してくれます。ボールを固い床に落とすとすぐに跳ね返ってきますが、柔らかいクッションの上だとボールの落下エネルギーがクッションに吸収されて反発力が弱くなるのと同じ原理です。

 本体の液晶画面に数字が表示されるだけではなく、音声で読み上げてくれる機能もあるのですが、ドイツ製の器械なので、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語の5カ国語しか選べません。最初はずっと英語で使っていたのですが、最近スペイン語にしてみました。?2だと"menos dos"と読み上げてくれます。

 ラテン系のノリで私としては気に入っているのですが、スタッフには判りにくいとやや不評です。それとスペイン語を聞くとアメリカの大学にいた時、大学の近所のメキシコ料理店で 教えてもらった唯一のスペイン語、"Una cerveza por favor."(ビール1本お願いします)を思い出してタコスが食べたくなってしまうのも難点かもしれません。

 前歯の冠がぐらぐらするという患者さんがお見えになりました。以前から定期検診で冠の下に虫歯があり冠のやり直しが必要だと判っていたのですが、患者さんの体調がすぐれない事もあり、そのままになっていました。ひさしぶりにお見えになって、指でそっと動かしてみると嫌な予感がします。歯の根の中程で折れているような感じがします。レントゲンを撮ってみるとやはり残念ながら根の半分ほどのところで垂直に折れていました。

 比較的、冠に近い位置で折れている場合は冠の作り直しだけで治療を終えることができる場合もあります。ところが、根を支える骨より深い位置で折れていると複雑な処置が必要になってしまいます。

 骨の位置より下でも折れている位置が比較的浅ければ、部分的な矯正装置を使って折れている部分が骨の外に出るまで根を引っ張り出す事が出来る場合もあります。また、いちど抜歯をして180度回転させ方向を変えて再植が出来る場合もあります。いずれにせよ、深い位置で折れていると保存が不可能になります。

 折れた歯をそのまま放置していると折れたラインからばい菌が侵入して歯茎が腫れてきます。腫れると周囲の骨が溶けてしまい、その後の処置がだんだん難しくなってしまいます。本来は早く抜歯したほうが良い事もあるのですが、患者さんは「冠が取れただけ」と思われているので説明してもなかなか理解していただけない場合もあります。

 この患者さんの場合はブリッジとインプラントと取り外しの義歯という3つの治療法について説明したところ、インプラントを選択されました。とりあえず、麻酔をして冠と折れた根っこの部分を取り除き、両隣の歯に矯正用の接着剤を使って仮歯を固定しました。

 一週間後に時間が取れましたので、残りの歯の根を抜歯して同時にインプラントを植えました。幸い骨のダメージも少なかったので初期固定がしっかりと得られましたので、そのまま仮の土台を取り付けて仮歯を戻しました。翌日にチェックにおいでになりましたが、痛みはまったく無かったとおっしゃっていました。

 従来の方法では、先に抜歯を行ない上顎だと6ヶ月ほど治癒を待って、骨の吸収量が多い場合は骨を造成する処置を行ない、また半年ほど待ってようやくインプラントの埋入という場合もありました。数回の外科処置が必要なだけではなく、インプラントを植えるまでの間に長い待ち時間も必要です。さらには抜歯した部位に即座にインプラントを植えた場合、骨の再生能力が高まっているので、インプラントと骨の結合が起こりやすいという利点もあります。また、表面をハイドロキシアパタイトでコーティングしたインプラントを使うことにより、抜歯窩(歯を抜いた後の骨のくぼみ)に骨が再生されやすくなり、最終的な骨の吸収量も少なくなります。

  抜歯即時インプラントの場合は10-14週ほど待ってインプラントと骨がしっかりと結合するのを待って最終的な冠を作るだけです。抜歯即時インプラントは抜歯後に骨や周囲の組織が吸収する量をしっかりと把握してインプラントを植える位置、方向、深さなどを決めないといけないという難しさはありますが、きちんと計画して埋入すれば場合によっては1年近くも治療期間が短縮できる事もあります。

 冠が入っている歯がなんだかグラグラするという場合は、折れている事もありますので、なるべく早めに受診してください。周囲の骨が溶けてしまってからではインプラントが不可能だったり、さらに複雑な処置が必要になる場合もあります。

 今年の1月に上顎の抜歯即時埋入をした患者さんがいらっしゃいます。年明け早々に埋入をして、初期固定が良好でしたので、そのまま仮歯を連結して即時加重をしました。調子が良かったのか経過観察にもおいでになりませんでした。こちらから電話をしたり、お手紙を出したりしたのですが、そのままになってしまっていました。

 今日の昼頃、その患者さんからひさしぶりに電話がありました。「インプラントのところに口内炎が出来て気になるので診て下さい。」との事でした。午後からは比較的大きな処置の予約が入っていたのですが、とりあえず午後いちばんに来て頂くようにしました。

 先にインプラントの患者さんを診てから状況を把握して予約の患者さんを診るつもりだったのですが、こんな時に限ってインプラントの患者さんが中々お見えになりません。予約の時間を少し過ぎてお見えになった患者さんをすぐに診療室にお通ししてお口の中をみてビックリしました。直径8mmぐらいの膿瘍が歯肉に出来ています。しかもインプラントを植えた場所の真上です。

 デジタルカメラで写真を撮って、デジタルX線写真を撮影しました。最悪の場合、感染を起こしてインプラントをロストするかもしれないと思う程、大きな膿瘍でした。

 X線写真を見ると、インプラントの本体(フィクスチャー)には全く問題がないようでした。仮歯を支えるためにフィクスチャーに連結していたテンポラリージンジャイバルカフというパーツが緩んでいました。隙間に溜まった食べカスから感染を起こしているようです。通常は定期的にチェックをして緩みが無い事を確認し、緩みそうな場合は増締めをするのですが、半年以上も放置したために噛み合わせの力でわずかに緩んでいました。

 カフを一度外して中を洗浄し、しっかりと閉め戻してレーザーを照射し、抗生物質を投与したところ、1週間で綺麗に治りました。本来はすぐにでも最終的な冠を作る処置に入ったほうが良いのですが、患者さんのお仕事の都合でもう数ヶ月はこのまま経過観察になる予定になってしまいました。

 隣の歯との間隔が狭く、骨の厚みもなかったので、許容される誤差が1mm以下というシビアな埋入だったので、このインプラントだけはロストしたくないと思っていたので、ちょっとほっとしました。

 埋入後も補綴後も必ず定期検診にはおいでになってくださいね。

 「即時加重」とはインプラントを植えた当日に、仮歯を入れ噛む力を加える方法です。以前はインプラントを植えたら3-6ヶ月は絶対安静状態で力を加えるなどとんでもないと思われていました。その後の研究や技術の進歩で、条件が整えば即時加重をしても大丈夫だという事が判ってきました。

 今回の処置では虫歯がひどくなって割れてしまった歯を抜いてインプラントと置き換えました。幸い、炎症が進む前にでしたので、歯を支える骨が比較的多く残っていました。従来の方法だと抜歯をして3ヶ月待って、インプラントを埋入し、さらに4-6ヶ月待ってようやく噛める状態になります。

 もし、骨の吸収が多ければ、骨を増やす処置をしてさらに6-12ヶ月待たないといけませんでした。ずいぶん時間がかかりますね。

 歯槽骨や歯肉に損傷を与えないように通常の抜歯よりやや時間がかかりますが、15分ほどで抜けました。汚染した部分をきれいにしてインプラントの位置決めをして埋入をしました。埋入自体は30分ほどです。インプラントや歯の動揺度を調べるペリオテストという機械でチェックをすると動揺度は[0]。埋入時のトルク値も40N・cmを越えていましたので、充分に即時加重が可能な値です。仮の歯を取り付けるための土台をインプラントと連結しました。

 インプラントと抜歯窩の間にはやや隙間が残りますので、骨を誘導してくれるハイドロキシアパタイト製剤を入れ、仮歯を取り付けました。

 「なんでもバリバリ噛める」訳ではありませんが、痛みや腫れもなく、目立つ部分だったので抜いた後の事を心配されていた患者さんには非常に喜んで頂きました。
 
 同じ週に埋入した別の患者さんも抜歯即時インプラントでしたが、骨の条件がやや悪く、即時加重はできませんでした。また、奥歯を一本だけインプラントと置き換える処置でしたので、あまり噛む事の影響がないためペリオテストの値を見ながら1-2ヶ月で荷重を加える方法を選択しました。

 できるだけ患者さんの肉体的負担を減らす為に新しい技術や手技を使えば、ひどく腫れたり痛んだり治療の終了まで長期間かかる治療は過去のものになりそうです。

 前歯で食べ物を噛んでいたらガリッと音がして歯がぐらぐらして来たという患者さんが駆け込んでこられたのは去年の終わりの事でした。神経が無い歯で冠を被せてありました。根が折れてなければ良いのだけどと思いながらレントゲンを撮影したのですが、残念ながら折れてしまっていました。
 
 神経を取った歯には根の中に土台を差し込んで上に冠を被せるのですが、丈夫な金属の土台をしっかりと入れてしまうと無理な力がかかった時に歯の根っこが折れてしまう場合があります。強度と弾力性を兼ね備えるグラスファイバーロッドで補強した土台を使う方法もありますが、残念ながら保険の適応になりません。

 最近は保険の範囲内で作る場合でも私はできるだけ樹脂と柔らかい金属の組み合わせで土台を作るようにしています。強い力がかかると土台ごと脱離しますが、根っこは守られます。壊れるなら置き換えの可能な人工物が壊れて欲しいと思います。

 この患者さんの場合は根っこが垂直に折れていましたので、抜歯するしかない状態でした。

 抜歯した場合、選択肢は4つです。

1. 両隣の歯を削って冠を被せてブリッジにする
2. 両隣の歯にバネを掛けて取り外しの入れ歯にする
3. インプラント
4. 抜けたまま放置

 患者さんとお話した結果、抜歯して同日にインプラントを植える事になりました。根っこが折れていましたのであまり時間的な猶予が無く、急遽、その翌週にインプラントの埋入をしました。

 やや炎症があったので、念のために2ヶ月半待って仮の土台を立ち上げ、トータル3ヶ月と少しで処置を終了しました。術後の消毒やチェックを別にするとインプラントの部分の処置は6回で終了しました。

 従来の方法では抜歯して3-6ヶ月待っていました。その間に骨が吸収してしまった場合には骨を作る手術をして
また6ヶ月程待ちます。ようやくインプラントを植えてもまた6ヶ月待っていました。外科処置だけでも3回以上は必要でした。

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 上顎の6本の前歯が写っていますが、向かって左側の二本は冠です。今回は患者さんのご希望で作り直しはしませんでした。中央の2本の歯と向かって左側の端の歯(糸切り歯)は天然歯です。インプラントはDentalの文字の"tal"の下あたりの歯です。冠が入っている向かって左側の二本よりもかえって自然な感じがしませんか?